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ケニヤ山登山日記

 

1990921日 Nairobi Naromoru

 朝7時に起床、向かいの食堂で朝飯を食い、Zanzibar Curio Shopで両替。円トラベラーズチェックがブラックマーケットで両替できるのだから、驚きだ。イクバルホテルをチェックアウトして、10時半頃OTCのバスターミナルへ。ナロモルを通るイシオロ行きのバスは、9時半発の予定だったが、まだ来ていないという。2時間ほど待って、12時半にやっとバスが来て出発。すいている。道はかなり良かった。あちこちの町で10分、15分と止まりながら進むので、とてものろい。結局6時間以上かかって、もう日も暮れた645分頃ケニヤ山登山の基地となるナロモル着。近くの安宿にチェックイン。シャワー・トイレ付きのシングルで100シリング(600円)。『登山ガイド』と称するやつが付きまとってきてうるさい。夕食はチキンとスープ、ファンタで46シリング。

 

922日 Naromoru Chogoria

 朝飯を食いに食堂に行ったら、ちゃんと昨日の『登山ガイド』ジム君が来ていた。彼と一緒に、ケニヤ山登山ツアーを出しているRiver Lodgeに行って、値段を調べてみる。3日間のツアーで3,500シリング(20,300円)、5日間だと5,500シリング(31,900円)で、キャンピングサファリツアーよりも高い。しかも2,3日以内に出るツアーはなさそうだったので、結局ガイドのジム君を雇って2人で登ることにする。日当150シリング(900円)の約束だ。チョゴリアから登ってナロモルに降りようということになり、昼過ぎ彼と一緒に山の反対側のチョゴリア目指して出発。ケニヤ山を右側に見ながら時計回りでナンユキ、メリでマタトゥ(ミニバス)を乗り換えて、6時ころチョゴリア到着。夕食後、ジムに金を渡して買い物をしてもらう。ホテルで今日下山してきたイギリス人のパーティーに会い話を聞くと、高山病で結局Minto Hutまでしか行けなかったそうだ。上はとにかく寒いとのこと。小屋の中の水に氷が張るというから、ハンパじゃない寒さだ。10時頃寝るが、けっこう興奮して2時頃まで眠れなかった。

 

923日 Chogoria →登山口ゲート(標高3,000メートル)

 登山口までジープを雇うととても高かったので、結局チョゴリアロッジのボロ車(外見はスクラップ)を途中のClearing(空き地)まで300シリング(1,800円)でチャーターすることにした。20年以上動いているワーゲンで、良くこれで走れるものだ。だが結局途中で登れなくなり、運転手のおやじと子供が我々の荷物を背負って歩いて、10時半Clearingに到着。ここから登山口のロッジまでは10キロ弱だ。11時に出発。ポレポレ(ゆっくり)歩く。あたりはうっそうとしたジャングルで、途中遠くから猟犬の物と思われる吠え声が聞こえてくると、ジムは心配そうにペースを速める。多分密猟者がいるのだという。彼らは盗賊も同然だから、出会ってしまうとまずいなんて言う。だが幸運なことに猟犬の吠え声はそれ以上近づいては来ず、2時半頃無事登山口のロッジ到着。だがロッジの宿泊料は1240シリング(1,400円)もするので、私はさらに先の小屋まで進もうと言ったが、結局ジムが国立公園管理事務所の人たちと交渉して、彼らの宿泊所の1室を150シリング(900円)で借りることが出来た。ラッキー。外にはちゃんとトイレや水道もあり、十分な設備だ。紅茶を飲んで、夕食の準備。ジムが作ってくれた夕食は、肉、ポテト、トマト、ライスの煮込みで、とてもおいしかった。このジム君、最初はしつこいやつだと思ったが、意外といいガイドかもしれないと思われてきた。ここの標高は3,000メートル弱のようだが、今のところ高山病の症状はない。明日の予定宿泊地、Minto Hutの標高は4,200メートルだから、明日はまず確実に高山病になりそうだ。とにかく荷物が重すぎる。とりあえず、ポレポレ、トライしてみよう。

 

924日 登山口ゲート → Minto Hut(標高4,200メートル)

 6時半起床。国立公園入園料はラッキーなことに学割料金ですんだ。3日間で314シリング(1,820円)。8時過ぎに出発。天気は上々だ。標高3,300メートル地点の小川のところまで4WDで行ける道があり、ここでキャンプも可能。ここからいよいよ登りが始まる。とはいっても、ずっと緩やかな登りだ。ポレポレ(ゆっくり)登る。ジムはもどかしそうだ。標高3,700メートルくらいまではわりと調子が良かったが、この辺から急速に疲れが出て息切れし、高山病の症状が出てきた。4,000メートル辺りまで何とか登るが、ほとんど歩けなくなってきて、ジムが荷物を全部持ってくれる。だがここから先がとても長くて、次の尾根を越えたら・・・と思うとまだまだ先、といった具合で、何度か上り下りを繰り返し、もう精も根も尽き果てた頃やっとMinto Hutに到着した。5時過ぎだった。9時間以上かかったことになる。小屋ではイギリス人のパーティーも一緒だったが、彼らは元気そうでうらやましい。熱い紅茶を飲み、バターパンを食って何とか生気を取り戻す。晩飯もおいしかった。食欲はあるので何とかなりそうだ。日が暮れると、外は満天の星空。小屋のそばに池があり、水面に三日月が映って、それはそれは神秘的。なんだか魔法にかけられたみたいで怖いくらい。山の稜線が夜空に黒々と浮かび上がっている。8時頃寝袋に入ったが、目がさえて息苦しく、全く眠れない。結局翌朝6時半までまんじりともしなかった。

 

925日 Minto Hut Austrian Hut(標高4,790メートル)

 朝、全く眠れないまま起きる。体がフラフラして脈拍もやたら速い。バターパンを紅茶で無理矢理押し込んで、8時過ぎ出発。本当にゆっくりゆっくり、亀みたいに登る。かなり急な登りだ。だが自分でも驚くほど歩ける。フラフラしているし、息切れもひどいのだが、どういう訳か、ゆっくりゆっくりなら歩けるのだ。頭痛もほとんどない。1時頃、Austrian Hutに到着。小雪が待っている。赤道直下で降る雪! 小屋は巨大な氷河のすぐ下にあって、Minto Hutよりも大きくて居心地もいい。熱い茶でバターパンを流し込むと、頭痛も消えて、昨日よりずっと調子がいいのは驚きだ。脈拍だけは横になっていても100から120もある。夕方天気がよくなり、快晴の空に半分雪をまとったレナナ峰が目の前に姿をあらわした。今すぐにでも登ってしまえそうだ。標高差はたったの200メートル。明日の朝までにいきなり気分が悪くなったりしなければ、何とか登れるだろう。ここまで来たからには、絶対に頂上を極めたい。ジムにこれだけ荷物を持ってもらっているのだから、頂上を踏めなければ恥だ。

 

926日 Austrian Hut Met Station Naromoru

 高山病というのは本当に恐ろしいものだ。昨日標高4,790メートルのAustrian Hutまで登って全然なんともなかった筈なのに、今日起きるといきなりものすごい頭痛と吐き気が襲ってきた。天気は快晴。目の前のレナナ峰がおいでおいでをしている。だが無理だ。本当に無理だ。頭がガンガンして、起き上がると急に吐き気がして、昨晩食べたものを全部吐き出した。死にそうな気分。全く歩けそうにない。昨日の午後登っておけば・・・と悔やんでも後の祭りだ。昨日は多少身体がふらついてはいたが、頭痛もなく、気分は良かった。一晩寝ただけでいきなりこんなことになるなんて、誰に想像できよう。結局またジムに荷物を全部持ってもらって、9時前に下山開始。頭がガンガンして体がだるく、本当に苦しい。荷物を持ってもらっているのに、フラフラしてゆっくりしか歩けない。道はテレキバレー目指して一気に下っていく。眼前には岩山と氷河が聳え立ち、あたりには巨大なサボテンみたいな面白い植物があちこちに生えていて、すばらしい景観なのだが、死にそうなくらい苦しい身には全然楽しめない。標高4,200メートルのマッキンダーズ・ハットを過ぎ、道は谷に沿ってゆるゆる下っていく。依然頭が割れるように痛く、だるい。途中で何度も休む。目をつぶるとその瞬間に眠ってしまいそうだ。だが、ここで眠ったら俺は死ぬぞ!と自分にムチ打って何とか歩きつづける。午後3時半ついに登山口のMet stationにたどり着いた。これで助かった。ジムに感謝。高度が下がったためか、気分も良くなってきた。たまたま登ってきたナロモルリバーロッジの車に乗せてもらい5時頃出発、午後6時頃無事ナロモルのホテルに帰還した。ジム君には本当に世話になった。最初は押し売りのガイドだったが、実際山に入るととても有能なガイドだった。料理もうまかった。高山病で死にそうになった私の荷物を全部持ってくれた。本当に命の恩人だ。チップを弾むと、その場で早速ビールを数本空けてしまうところは実にアフリカ人らしかった。ジム君にはホテルで夕食とビールをご馳走し、一緒に食べる。彼はもう何度もケニヤ山に登っているという。食後、まだビールを飲んでいるジム君に別れを告げ、部屋に入って泥のように眠った。

(終)

 

<あとがき>

キリマンジャロがアフリカ大陸の盟主としてその巨大さと雄大な景観が魅力だとするなら、ケニヤ山の魅力はその変化に富んだ自然景観にあるといえる。頂上付近の荒々しい岩山と巨大な氷河の迫力、中腹の不思議な植生と神秘的な雰囲気は、キリマンジャロとは全く違った魅力を持っている。キリマンジャロとケニヤ山、どちらも異なったすばらしい魅力を持つ山で、甲乙をつけがたい。ぜひ両方登ってみて欲しいものだ。私がケニヤ山登頂を目指したチョゴリア入山、ナロモル下山というコースは、変化に富んだ美しい景観が楽しめるので、大変お勧めできる。

 

<ケニヤ山登山費用>

ジム君の給料とチップ 1,000sh.  食料費、燃料費 460sh.  コンロ、コッヘルなど装備費410sh.  入山料(学割) 314sh.  交通費 入山時 300sh. 下山時 600sh.  バス代  180sh.  ゲートの山小屋代 150sh.  その他宿泊費と食事代 190sh.  合計 3,604sh.(約21,000円)sh.:ケニアシリング:1シリングは約5.8円。(19909月現在)

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