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旅行費用はどのように携帯すべきか?

 

海外旅行をするときに、必ず考えなければならないのが、どのようにして旅行中に使うお金を持っていくかということだ。これは旅行期間や目的地の事情、治安の良し悪しによっても全く変わってくるし、失敗すると大変な不便や不利益をこうむってしまう。十数年も前の話だが、学生時代、初めて西ヨーロッパを長期旅行した時のことだ。『地球の歩き方』の指示に従い、私は旅行費用のほとんど全てを米ドルのトラベラーズチェックで持っていった。旅行中に歴史的なプラザ合意でドル高の是正が決定され、ドルはヨーロッパの通貨に対して急激に下がり始めた。そして日本に帰国してみると、ドルは円に対しても何と20%も下がっていたのだ。ケチケチ旅行をしていたので、まだ旅行費用のドルがたくさん余っていたが、円に再両替すると20%も損をしてしまったのである。西ヨーロッパではこのとき既に日本人旅行者が多く、円のトラベラーズチェックや現金をどこでも良いレートで両替することができた。だからそもそも大量の米ドルなど持っていく必要は全くなかったのである。だが『地球の歩き方』にはそんな事実は一言も書いていなかったのだ。私の『地球の歩き方』嫌いは、実はこのときから始まっている。むろん、理由はそれだけではないが。ここでは、私のこれまでの経験から、どのような形で現地で使う旅行費用を携帯するのがベストかよく考えてみたい。

 

1.            円の現金

円の現金を持つ利点は、出発前に外貨やトラベラーズチェックを買う手間が省けること、使い残しても再両替する必要がないこと、そして両替による為替差損が少ないことなどが挙げられる。日本人がよく訪問し、経済的結びつきの強いアジア諸国なら、円の現金から現地通貨に良いレートで簡単に両替できる。また、西欧諸国でも円の現金を簡単に両替できるし、一般的にレートも良い。但し、現金は紛失すればそれまでだから、旅行日数が長かったり多額になってしまうようなら他の方法と組み合わせた方がいいだろう。

勧められる国・地域: 韓国、中国、台湾、香港、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、西欧諸国など。

 

2.            ドルの現金

ドルの現金は、いざという時の非常用として力を発揮するし、また小額だけ両替したい時も円の紙幣より小額紙幣が多くて便利だ。しかし日本で購入するときに3%くらい手数料を取られるから、為替差損率も大きい。持ち帰って円に再両替すると計6%のロスになる。ドルの現金を持っていかなければならない事情のある国を除いては、あくまで非常用、小額の両替用として少しだけ持っていくのが良いだろう。アメリカ本国に行く時も、後に述べるようにトラベラーズチェックの方がレートが良いから、わざわざドルの現金を持参する必要はない。ドルの現金を現地旅行出費の主要な手段としなければならない国は、比較的限られている。経済インフラが未発達でトラベラーズチェックの使用が不便だったり法外な手数料を取られる国、ブラックマーケットがあってトラベラーズチェックを公定レートで両替するとかなりの損をしてしまうような国などだ。私がこれまで旅行した経験から、ドルキャッシュを主要な財源として持参しなければならない国は以下の通り。

勧められる国・地域: ビルマ、カンボジア、ロシア(トラベラーズチェックを使える場所が少ないし、手数料も高い。円の現金のレートも一般的に悪い)、キューバ(トラベラーズチェック両替の手数料が高い)、アルゼンチン(同様)、その他多くの中南米諸国(トラベラーズチェックも使える国が多い)。

 

3.            米ドル以外の現地通貨の現金

日本では、米ドルの現金以外にもユーロ、英ポンド、豪ドルその他の現金を購入することが出来る。しかし購入の際の為替手数料を5%から10%も取られるので、わざわざ日本でこれらの通貨を買っていくメリットは小さい。

 

4.            円トラベラーズチェック(円T/C)

トラベラーズチェック(T/C)は、自分のサインがないと使えないし、紛失したり盗まれても一応払い戻しが出来ることになっているので、現金よりもずっと安全性が高い。(しかし必ず払い戻しが受けられるという保証はない。10年近く前だが、ブラジルで強盗にあってアメリカンエキスプレスの米ドルT/Cを盗まれた日本人旅行者数人が、払い戻しを拒否されるという事件があった。盗まれたT/Cが既に不法に換金されていたため、AMEX側が払い戻しを拒否したらしい。)購入時に手数料を通常1%取られるが(シティーバンクのように、口座を持っていればT/Cの発行手数料が無料の銀行もある)、海外で現地通貨に両替する際のレートも現金より良い場合が多い。円のT/Cは余って持ち帰っても為替差損がないし、近隣アジア諸国や西欧諸国では良いレートで現地通貨に両替できるから、これらの国に旅行する際には主な財源として携帯するようお勧めできる。しかし西欧諸国などではT/Cの両替に多額の手数料を取られるケースが多いから、両替前に必ず手数料を確認し、高すぎるようならATMカード(後述)を使った方がいい。

勧められる国・地域: 1と同様の国々。更に、オーストラリア、ニュージーランド、東欧諸国などでも良いレートで使えることが多い。

 

5.            米ドルトラベラーズチェック(ドルT/C)

アメリカに旅行するなら、絶対これ。ホテルやスーパーなどでも現金同様使えるし、お釣りもくれるから両替の必要がない。中南米諸国などアメリカの経済的影響の強い国に旅行するときや、円が使えない場合の予備費としても、重宝する。

勧められる国・地域: 米国、中南米諸国、東欧諸国、南アジア諸国、中東諸国、アフリカ諸国等。

 

6.            米ドル以外のトラベラーズチェック(T/C)

米ドル以外のT/Cも日本で買っていくことができる。現金と違ってレートも悪くないから、訪問国通貨のT/Cが手に入るなら、通常はこれを買っていくのが一番いい。ユーロ圏、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどに行くのであれば、当該通貨のT/Cを買っていくと良いだろう。

勧められる国・地域: 上記の国。また、西アフリカ諸国やフランス統治領(タヒチなど)では、米ドルよりもフランスの通貨であるユーロの方がレートが良い場合が多い。

 

7.            クレジットカード

中級レベル以上のホテルやレストラン、ショップでしか使えないから、これだけに頼って旅行するわけにはいかないが、円に換算する際の為替レートが通常とても良いので、使えるところではこれを使った方がいい。特に西欧諸国など、現金に両替する手数料が高い場合は現金で買うよりもカードで払った方がずっといい。また、非常時には銀行やATMでキャッシングが出来るから、倹約旅行者でもこれをお守りとして持っていけば心強い。

 

8.            ATMカード

ここ数年でとても便利になってきたのが国際ATMカードである。銀行の窓口に並んでわざわざ両替しなくても、日本国内と同じように世界中のATMから自分のお金を引き出すことが出来るのだから、これは便利という他ない。しかし、便利なものには必ず落とし穴もある。クレジットカードならもし不正使用されても実際にお金が引き落とされるまでに気がつけば通常保険でカバーされるが、ATMカードにはそのようなプロテクションが一切ない。引き出したお金はリアルタイムで口座から引き落とされるから、もし不正使用されたらそれまでである。実際、ロシアでATMカードを使った人が、行ったこともない国で勝手に自分の口座からお金を引き出されるという事件が頻発したようだ。磁気情報が読み取られ、カードが偽造されたらしい。また、通常ATM使用料は取られないが、その代わり為替手数料を4%くらい取られるから、たくさん使うと為替差損も大きい。しかし西欧諸国など、現金に両替する際の手数料が高い所では、ATMカードを使った方が得な場合も多い。T/Cの両替などに比べるとこれが一番楽だから、細かいレートは気にしないけれどとにかく楽にスピーディーに両替したいという人には、これが一番向いているだろう。但し発展途上国などでは使えないこともあるし、使えるところが少なくて不便なことも多い。渡航する国で便利に使えるかどうか予め調べる必要がある。(ここで書いたのは、シティーバンクのATMカードの場合)

特に使用を勧められる国・地域: 西欧諸国

 

以上、お金を海外に携帯する方法は様々だが、一つの方法に頼らず、各方法のメリット・デメリットを良く考えて、旅行日程や渡航地域に適した形でうまく組み合わせていくのがベストだろう。

 

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