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物価の高い国、安い国

 

世界のあちこちを旅していると、物価が安くて旅行が快適な国や、逆に何でも高いくせにちっとも快適でない国など、いろんなタイプの国があることに気づく。為替レートなんていわば集団幻想の最たるもので、一定の基準があるわけではないから、時にはまったく常識からは考えられないような為替レートが平気でまかり通ってしまうこともある。最近、アルゼンチンペソの暴落が新聞の経済面をにぎわしたが、このアルゼンチンペソ、暴落前は過大評価された通貨の代表格のような存在だった。1ドル=1ペソなどという、この国の経済レベルからは到底考えられないような実態離れした人為的為替レートが10年以上にわたって続いたのである。アルゼンチンは決して先進国とは言えないが、先進国並みかそれ以上に強い通貨を10年にもわたって持ち続けたのだ。いつかはこの固定為替レートが崩壊することは自明の理だったが、私は正直言ってもっと早いと思っていた。約10年前同国を訪問したとき、国の発展レベルに比べて物価が異常に高いのに驚き、遅かれ早かれペソ暴落がおこるとは思ったが、つい最近まで持ちこたえていたとは驚きであった。

アルゼンチンのケースとは逆に、国の発展レベルと比べて物価が異常に安すぎるという場合もある。通貨が過小評価されてしまったというケースだが、物価が安いというのは外国人旅行者にとっては少ない費用で快適な旅行が楽しめるチャンスでもある。世界中に、単に物価が安いという国ならばいくらでもあるが、その多くは、いわば、安かろう悪かろうで、安いことは安いが快適な旅行を楽しめるだけのインフラも整っていないというケースが多い。旅行者にとって真に物価の安い国とは、快適な旅行が少ない費用で楽しめる国ということだ。このような観点から、旅行者にとって物価の高い国、安い国の例をいくつか挙げてみたい。

 

<物価の高い国>

・2001年までのアルゼンチン

1ドル=1ペソという人為的固定為替レートを採用しており、とにかく何でも理不尽に高いと感じる。スーパーで買い物をすると、名物の牛肉を除けばアメリカや日本のスーパーよりも高い。小ビンのコーラ1本を売店で買うと1ドル、キオスクで買うと1.50ドルから2ドルである。普通の大衆的レストランで食事しても、あっという間に110ドルを超えてしまう。国のインフラレベルは隣国チリやブラジルと同等なのに、物価だけ2倍以上というのは合点がいかない。20021月、ついにこの固定レート制は崩壊し、4月現在、1ドル約3ペソと、同国の経済レベルを反映した為替レートになっている。アルゼンチンを訪問するなら、今がまたとないチャンスだ。今度の夏(200311月から043月)には、ぜひ同国を訪問し、パタゴニアの雄大な自然を満喫してほしい。

 

1998年までのロシアと現在のロシア

ロシアも、988月にルーブルが暴落するまでの数年間、通貨が過大評価され物価の異常に高い国だった。今では落ち着いているが、それでも国内物価の上昇率にドルの上昇がついていっておらず、外国人にとっては年々旅行物価が高くなってきている。また、同国よりも経済発展の進んだ東欧諸国と比較しても、ロシアルーブルがまだまだ過大評価されているという面は否めない。ロシアは、現地の一般的な物価レベルと比べて、外国人旅行者にとっての旅行物価レベルが非常に高い国である。ソビエト時代には不必要なホテルを作らなかったから、今でもホテルの絶対数が不足しており、とんでもないオンボロホテルにとんでもない値段がつけられていたりする。ホテル代の外国人向け2重価格制もまだ健在だ。列車運賃や航空運賃など交通費の2重価格制はほとんど姿を消したが、博物館などの2重価格制は逆に強化されている。バレーコンサートでさえ外国人は別料金。いわゆる中産階級がほとんど存在しないという特殊事情のため、観光で国内旅行をするロシア人がほとんどおらず、したがって旅行インフラの整備は遅々として進まない。観光に関してこの国の持つ将来的可能性は大きいが、今のところ一般的自由旅行を楽しめるという状況ではない。しかし困難に立ち向かうフロンティアスピリットを持ったバックパッカーには、この国は未知の可能性にあふれた新世界といえる。

 

・アイスランド

アルゼンチンやロシアが単に一時的、人為的な事情で物価の高い国だったとするなら、アイスランドの物価の高さは『本物』だ。実は私はアイスランドには行ったことがなく、ぜひいつか行ってみたいとは思っているのだが、物価高のうわさを聞くと、貧乏人の私には無理ではないかと悲観的になってしまう。聞くところによると、物価は日本の2倍以上、消費税に至ってはなんと25パーセントだという。離島で人口も少ないから、コスト高になってしまうのは仕方ないのだろう。イギリスも物価の高い国だが、そのイギリスにアイスランド人の買い物客が押し寄せ、安い安いと物を買いまくっているということだ。

 

<物価の安い国>

・チェコ                                                                                                

社会主義時代から東欧の優等生だったチェコは、今でも東欧で最も生活水準が高い国だ。旧ソ連諸国が未だに社会主義時代の負の遺産を背負い、社会主義から第3世界の一員に転落してしまったのとは裏腹に、チェコを始めとする中欧諸国は順調に先進国への仲間入りの道を歩んでいるように見える。しかし、隣国ドイツやオーストリアに比べるとまだまだ経済格差は大きく、物価がいきなり半分以下になってしまうのには驚かされる。チェコは、貧乏バックパッカーが喜ぶ、インドや中国といったレベルで物価が安いわけではない。チェコのすごいところは、ホテル、交通機関、レストランその他の旅行インフラのレベルが隣国ドイツやオーストリアとほとんど変わらないのに、物価だけ半分以下になってしまうことだ。中世ヨーロッパのたたずまいを残す古都の石畳をそぞろ歩き、しゃれたカフェでコーヒーとケーキを食べ、おなかが減ったら郷土料理レストランで冷えたビールを飲みながらおいしい料理に舌鼓を打ち、清潔で快適なペンションに泊まる。そんな贅沢な旅が、日本の3分の1くらいの費用で可能なのだ。古い町並みの美しさはヨーロッパでも指折りだし、料理もうまいし、ビールのうまさは折り紙つき(これがまた安い!)。ロマンチックな雰囲気の町並みは、カップルでの旅行にも最適だ。

ワンポイントアドバイス:首都プラハは美しい街だが、外国人も多く、物価はそんなに安くない。狙い目は地方都市や田舎町だ。世界文化遺産に登録されているチェスキー・クルムロフの美しさは格別。隣国スロバキアの田舎も穴場といえる。(私が訪れたのは95年なので、その後状況が変わっている可能性もあります。)

 

・ネパール

世界で一番物価の安い国はどこかと考えてみると、まず思い浮かぶのがネパールだ。私がネパールを訪れたのはもう15年も前の話で、今では状況がかなり変わっているかもしれないが、それでも外国人にとって物価が非常に安い国であることには変わりないだろう。15年前訪れたときは、カトマンズの安宿の狭いシングルルームが1100円だった。だが部屋のベッドにはちゃんとシーツがついていたし、トイレやシャワーはむろん共同だったが、シャワー室には電気温水器があって、お湯のシャワーを浴びることが出来た。この安宿、値段とクオリティーという観点から考えると、世界最高レベルの安宿だったといえるかもしれない。他にも、カトマンズの安食堂では、ダルバート(野菜や豆のカレーとご飯)の定食が130円だったし、外国人向けのしゃれたレストランで腹いっぱい食って300円程度だった。ネパールのすばらしいところは、単に物価が安いだけでなく、外国人旅行者が多いためか、外国人の嗜好に合わせたレストランやホテルがたくさんあることだ。競争も激しいから、値段も決して高くならない。だが物価の安いのはさておいても、ネパールは本当にすばらしい国である。自然景観の美しさはもちろんだが、古い街並みやお寺がたくさん残っており、しかもそれらが人々の暮らしの中に今でも密接に関わっている。田舎の風景は、まるで日本の中世時代をほうふつさせるようななつかしさをひめている。別に山岳ファンでなくても最低1度は訪れる価値のある国だ。

 

<最後に>

以上、物価の高い国、安い国の一例を挙げてみたが、我々が忘れてはならないことは、一般的に、物価の安い国ではそれ以上に人々の給料も安いということだ。安い安いと調子に乗っていると現地の人々に悪い印象を与えることになりかねない。逆に、現地の物価をよく調べて節約に努めることは、決して恥ずかしいことではないし、現地の人に悪い印象を与えることでもないのだ。

 

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