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『花の谷』(Valley of Flowers)とヘームクンド・トレッキング日記

 

618日 ゴビンドガート(Gobind Ghat)

インドの首都ニューデリーから北東へ数百キロ、電車やバスを乗り継いで、ヒマラヤ山麓の寒村、ゴビンドガートにやってきた。標高二千数百メートルあるので、下界の暑さがうそのようだ。ここはシーク教徒の聖地、ヘームクンドを訪れるためのベースとなる所で、私が泊まったグルドワラ(巡礼宿)は、インドに限らず世界各地からやって来たシーク教徒の巡礼者たちで賑わっていた。宿のそばにはバスやマイカーがずらっと並んでいる。巡礼宿だから、基本的に宿泊料は無料で、出発時にそれぞれが寄付をしていくシステムになっている。だが私のような異教徒でも分け隔てなく暖かく迎え入れてくれるのがうれしい。案内された部屋はなんとトイレ・シャワー付きでびっくり。食事も無料で提供される。大広間に座ってみんな一緒に食べるのだが、内容が思いのほか豪華でびっくりした。いよいよ明日憧れの聖地への巡礼に旅立つ人々の高揚した熱気がひしひしと伝わってくる。小さな女の子が何人か働いていて、食事を配ってくれた。みんなとてもかわいらしくて、心が和む。

 

619日 ガングリアへ(標高約3,100メートル)

 5時前に起床、6時半に出発。巡礼たちと一緒に山道を歩く。始めは調子が良かったが、荷物が重くてだんだんスピードダウン。馬に乗った人がどんどん追い越して行くのがしゃくにさわる。ものすごく太ったいかにも金持ちらしい父娘が馬に乗っていたりする。巡礼とはいっても、金持ちはこうやって楽をしているのだ。けっこう疲れたが午後3時ごろガングリアのグルドワラ(巡礼宿)に到着。ゴビンドガートのグルドワラと比べると、山小屋のようでとても質素だ。人の洪水でもう部屋もないようで、廊下のスペースを与えられた。食事もやはり下と違ってとてもシンプルで、ダル(豆のスパイシーなスープ)とチャパティーだけだ。だがこれがけっこうおいしくて、毎日食べてもあまり飽きない。こんな山奥で暖かい食事を振舞われるのだから、有難さが身にしみる。食事後荷物を解いていると、まわりに1ダースくらいの見物人が集まってきた。その中で英語を話せる一人が代表していろいろと私に話しかけてくる。みんな私の一挙手一投足をジーッと見ているので、誠にバツが悪い。しばらく付き合って話をしていたが、こちらが寝袋に入って寝る体制を整えると、やっと見物人も解散した。

 

620日 花の谷訪問(標高約3,400メートル)

 朝5時起床。みんな4時半くらいに起きるので、嫌でも起こされてしまう。荷物は宿に残して、7時半頃、花の谷目指して出発。巡礼者たちはみなヘームクンドを目指しているので、花の谷への道に入るともう人っ子一人いなかった。まず危なっかしいつり橋を渡る。下は濁流で、落ちたらまず助からない。勇気を出して慎重に渡った。しばらく登って、雪渓の上を歩いたりしながら、道はやがて花の谷へと入っていく。しばらく行くと、お花畑に出た。小川には清流が流れ、花々が咲き乱れ、鳥や蝶が飛び交い、雪渓を渡る風は冷たく心地よく、ふと見上げると、雪をかぶった荘厳な山々がそびえ立つ。まるで神々の作った、天上の楽園みたいなところだった。美しいとかすばらしいとか、そんな言葉が陳腐になってしまうような場所だった。花の写真を撮ったり、寝転がって山を眺めたり、本を読んだりして3時間くらいゆっくりしてから、のんびりと巡礼宿に戻った。花の谷で過ごした丸一日、一人の人間にも出会わず、このすばらしい風景を独り占めすることが出来たのは本当に幸運だったと思う。

 

621日 ヘームクンド湖訪問(標高約4,100メートル)

 今日も5時に起床して7時に出発。沢山の巡礼たちと一緒に歩く。急斜面だが道はジグザグに作られていて緩やかで歩きやすい。相変わらず馬に乗った金持ち巡礼者たちが追い越していくのがシャクだが。途中にはチャイを飲ませる茶屋もけっこうあって、時々ミルクティーをすすりながら一休みするのもいい。雪渓を渡ったりして最後の急登の後、11時ヘームクンド湖到着。周りを岩山に囲まれた小さな湖だが、湖面はまだ8割方雪に覆われている。そしてこの氷の湖で、巡礼者たちがみなフンドシ一丁になり、淋浴しているのだ。中には泣き叫ぶ自分の子供や赤ん坊を無理矢理氷水の中に突っ込んでいる親もいる。子供が肺炎になるのではと心配してしまった。ここのグルドワラでは暖かいチャイを配っていたので、思わず有難く3杯も頂いてしまった。しばらくゆっくりして、近くの丘に登って花の写真を撮ったりしてから1時半頃下山開始。標高差1000メートルを1時間半で一気に下って、ガングリアのグルドワラに戻った。

 

621日 下山

 出発時に31ルピー(約300円)寄付すると、これだけでもけっこう喜んでくれた。どこのグルドワラでも、寄付にはちゃんと領収書をくれる。荷物を背負って7時過ぎ下山開始。11時半頃ゴビンドガートに戻った。ちょうど昼飯時なので、グルドワラで食べさせてもらう。その後バスに乗って標高2000メートルのジョーシナートまで下り、安宿にチェックイン。早速久し振りにシャワーを浴びてすっきりする。気候も良く、気持ちのいい町だったので2泊してトレッキングの疲れを癒し、さらなるヒマラヤ歩きに備えたのだった。インドヒマラヤの旅はまだまだ続く。

(旅行したのは1990年です。)

 

インドヒマラヤ写真館『花の谷とヘームクンド』(約600k)もあわせてご覧下さい。

 

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